ムンクの谷の/ウメコバ沢

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当初の計画は、水無川滝沢だった。この沢に対して、会のエースOさんが「滝沢、緊張します」と言った。どの沢のグレードも一般人の2つ下程度にしか感じないと言われている、あのOさんが。

緊張します、その言葉を聞くまで、無知な私はキャッキャウフフで「ドローン持っていきますねー」とハシャいでいたのだが、そんな気分は一瞬で消し飛んだ。滝沢について本やネットで情報収拾したが、敗退の記録は出てくるが、それ以上はほとんど掲載がない。会の過去の記録でも「敗退」していることだけは分かった。えええ・・・

幸い(?)、水無川方面の天気が悪く、その滝沢は持ち越し・転進となった。しかし、そうなればなったで、一瞬自分の手の上にあったのに、すり抜けて行ってしまった計画というのは、なんだか切ない。

ともあれ、転進先としてOさんから「ウメコバ沢に行きたいです」との言葉が。Oさんが行きたがる沢なら、一も二もなく行きたい私は即賛成したものの、足尾界隈博士であるIさんの「うーん。ウメコバかあ、もう日が短いから結構気合い入れないと」との言葉で、ヤバイやつかもと不安になり、さらに、私たちが参照した他会の記録には、下山20時との記載があり、不安を煽った。「いや、さすがに20時は何かの間違いだよね・・・」と詳細を掴めないまま、計画は進行した。

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山行当日の朝。足尾ジャンダルムやらの絶景を見ながら、林道アプローチ1時間40分で入渓点へ到着。

 

f:id:hudkass:20190920160639j:plain入渓点はめちゃくちゃキレイだった。なんなの、この澄んだ沢、素敵なチョックストーンは。

 

続く。

逆流する滝/井戸小屋沢

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台風がきていた。過去最大クラスで関東直撃、多くの電車が計画運休を発表していた。早く遡行を終えて帰らねばならないが、早朝の土樽駅で見た万太郎谷は、すっぽりと雲に覆われていた。谷川の他の山は綺麗に稜線が見えているのに、万太郎だけに重たい雲が乗っていた。

 

いまさら転進は気が乗らなかった。午前は少し降るが、午後は晴れる、という予報に期待して入渓した。雲の下、強風の中を、美しい渓相に後ろ髪を引かれながら、河原を走るように進んだ。

 

オキドウキョというゴルジュで、私が足を乗せようとした岩がモソモソと動いた。掌の半分ほどの小さなネズミがそこにいた。ゴルジュに住んでいるのだろうか。ネズミは2本足で立ちあがり、米粒のように小さな両手をゴシゴシと合わせて何かブツブツと言っている。目を離さずにいたのに、瞬きをした隙に消えてしまった。

 

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11時を過ぎ、稜線に近づくとともに風が強くなった。あまりの強さに、登ってきた滝が逆流して、水が宙に飛び上がり、私たちの背中にびしびしと当たった。痛い。痛いほど大きい飛沫の粒。こんなこと初めてだった。

 

台風は夜遅くに関東に上陸し、千葉の一部地域をめちゃくちゃになぎ倒した。電柱が倒れて送電線が千切られた地域は、10日経った今もまだ電気が復旧していない。

高難度ソナタ/台湾 龍鳳瀑布

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ピアノから紡ぎ出される音が室内に充満していた。あえぐように息をする私の口や鼻腔に入ってくる空気はすでに音に感電していて、体内には方向性を失った数秒過去の音が漂っていた。

 

音は強烈に私たちを翻弄するのに、その姿や色を目にできないのは本当に理不尽だが、その反面、もう見ることの叶わない過去の何かを脳内再生するのに、音ほど有用な手段はない。

 

音は一瞬で消えてしまうが、それに比べると、人はとてつもなくノンビリと生きて死ぬ。いろんなものを慈しむ時間を与えられている。

 

 

ヒグマの懐/日高の沢

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高巻いていた土壁が足元から崩れた。身体が一瞬の無重力に晒されたあと、成す術なく滑り落ちた。5mほど下の沢に足から着地、咄嗟に右腕を挙げて頭を覆うと、落石が降り注ぎ、そのうちの一つがゴン!と大きな音を立てて腕に当たった。見事に盾になった腕には楕円形の大きな青痣ができたが、きっとすぐに消えてしまうのだろう。

 

ホッケdeパーティー

帯広空港へ降り立ち、レンタカーで日高山脈の南東側、豊似川へ向かったが、一目で増水していると分かる川の流れが、入渓は無理だと告げていた。昨夜までの降水量は相当だったのだろう。それにまだ小雨がパラついていた。入渓を延期して、電波の通じる場所へ移動。情報収拾をしつつ、その日はホッケを豪快に焼いて宴会。今回は女子パである。怖いものはない。

 

翌朝は晴れたがテンションが上がらない。きっと増水で入渓できない、もうハイキングに変えようか、と話しながら、でも諦めるにしても、水量だけ確認しに行きましょう、どうせ今日は急がない旅になりそうですし、と言うと、Yさんが「それもそうだね」と頷いた。

 

ところが、入渓点について川を見ると、明らかに水量が減っていた。

 

「減ってる!めちゃくちゃ減ってます!」

先に車を降りて川の様子を見た私は、Yさんに叫んだ。Yさんの目の色が変わった。「よし、入ろう」。スイッチオン。急いで沢装備に着替えて入渓した。

 

勢いのある本流の流れを、スクラム徒渉で越えて右俣へ入渓。途中の河原にクマの大きな糞があり、ヒグマの生息地に入ったのだと覚悟を決めた。遡行中、何らかの獣が走って落石を起こしたり、耳を擘く大音量の笛のような鳥の鳴き声がしたり、静寂な山の中に力強い生命の息吹を感じた。

 

 沢は徐々に深いゴルジュ地形になり、水の色は悠然とした蒼さから、激しく白い渦へと変わっていった。

 

 ハーケンを打ちながらゴルジュの側壁をトラバースして進み、角を曲がると、予想以上に大きな滝が流れ込んでいた。そんなことが何度も続いた。曲がり角の先には、いつも豪快な景色が待っていた。

 

 

 滝が出てくるごとに、登れるか登れないかを相談するが、この水流の強い滝は、Yさんは一瞥しただけで登れないと判断し、大高巻きを覚悟して上を探っていた。一方私は右壁で行けると半ば確信して、「近くで見てきます」と滝の下まで行った。結果的にハーケン2枚で右壁を突破。「ルーファイ、お見事でした」と褒められた。この先輩はたまに褒めてくれるので、新人としては、やり甲斐がある。ロープの長さはギリギリだったけど。

 

 

こちらの滝はリードで登ったものの、あと5mほどロープの長さが足りず、途中の木で支点を取った。先の滝といい、ロープが足りないほどの高さなのに高度感を感じないのは、この北海道の空の広さのせいだろうか。

 

途中、滑落ハプニングで肝を冷やし、さらに遡行を続けるうちに、滝が終わった。稜線に上がる分岐は常に水の多いほうを選んで進み、地図上の沢形がなくなる分岐でも「藪漕ぎになる可能性が高いけど」と覚悟の上で、水のあるほうを選択して詰めた。

 

そしてやはり、藪漕ぎに突入。

 

途中で何度も足がつり、顔から転んで傷を作り、悪態をつき、1時間半、いや2時間だったか、一心不乱に藪を漕いで、稜線に這い上がった。そして稜線もまた藪漕ぎだった。

 

 

左俣への下降点につき、急傾斜で浮き石だらけのガレ場を下った。15時を回ったが、ビバークに適した場所はない。仕方ないので、ガレ場の上で寝ることにした。

 

岩をなんとなく平らにしてテントを立て、身体の下にロープやザックを敷いた。それでなんとかなるものである。

 

薪を集めて焚き火をつけ、今日はもう疲れているからと、すぐに米を炊いたが、火がついたことで気持ちがリフレッシュし、温かいものを口にすると、元気が戻ってきた。やっぱり宴会をしようと、主食の前にツマミを料理して、ホットウィスキーを飲んだ。

 

最後にカレーを食べて、星を眺めて、就寝。背中はゴツゴツしていたが、それなりに眠れた。

 

翌朝、アラームより早くYさんが起床。なにやら喋っている。

 

「ドスンドスン足音がしたから、クマかと思って声を出した」

とのこと。クマのやつ早起きだな、、念のため、スマホのアラームを最大音量で鳴らしてから外に出ると、姿はなかった。

 

朝焼けの空を眺めながら朝食。昨夜は水を採れた場所が、今朝はもう枯れていて、一晩の間に随分水量が減ったのだと知った。

 
 

テントを片付けて下山開始。懸垂下降できるところはして、あっという間に本流へ。「今日の核心」と言われていた、遥か頭上の車道へのアプローチも、途中で見つけた小滝を使って登ると、案外あっさりと車道へ出た。

 

1時間歩いて駐車場へ。9時に下山完了。

 

ゆっくり温泉に入って、回転寿司で海の幸を満喫。友人が経営する巨大油絵のある美術館に遊びに行き、北海道を満喫したのであった。

落とし前をつけろ/釜川ヤド沢

f:id:hudkass:20190820162348j:plainーーーー 三ツ釜の登攀を終えて、広大な滝全景を見下ろす岩の上に並んで腰を下ろし、はあー、と安堵の息をついて飲み物を口にした。

「普通、あんなにタワシ使わないよ」

呆れながら、でも楽しそうに登攀を振り返るKさん。普通なら巻く滝をあえて苦労して登るのは楽しい。記憶に残る山行になる予感がして、記録はどちらが書きますか?と聞くと、私に、とのこと。色々なことがあった山行、上手くまとめられるだろうか。

 

<釜川右俣ヤド沢>

今回の計画は、負傷中の私の左手に固定具をつけたまま、合計8本の手指でも行ける範囲の沢にしようと、釜川ヤド沢を1泊でノンビリと釣りでもしながら、というもの。

 

急ぐ旅ではないので、朝もゆったり。沢装備の準備をしながらドローンを飛ばして、これから遡行する沢を眺めた。

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100m上空より

準備しながら、チェーンスパイクが見当たらないことに気付いた。あまり忘れ物をしないほうなので、そんなバカな、とザックをひっくり返しても見つからず。(帰宅後、ザックのサイドポケットに入っているのを発見)。

 チェーンスパイクがないと、高巻きの難易度と所要時間が上がる。すると「自分は大丈夫だから」とKさんのスパイク、しかも買い換えたばかりの未使用新品をお借りすることになった。最初に高巻く際にスパイクを履いていると、

 「一度も使ってないんだからね。落とし前つけてね」

と真顔で言われて、震え上がった。落とし前って任侠映画でしか聞かない。どうしよう。Kさんてそういう、冷徹系?震える私を追い詰めるように、重ねて「落とし どめ」の声。ああ、落とし止め(カラビナ)ね。よかった、聞き間違えか・・・のはずが、後に本当に落とし前をつけることになる。

 

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釜川ヤド沢の記録は簡単に文章で読んだだけで遡行図も見ず、なんとなく手指マイルド癒し系チャーミーグリーンかと想像していたが、そんなことはなく。

滝の間をジャンプして乗り移って小さいホールドを掴み、ガストン気味に止めるとか、序盤から何かとスパイシー。指はさておき、とても楽しい。あとで知った遡行グレードは3級上。納得。

 

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負傷中の指もガッツリ使う


巨岩帯を抜けて、二俣から右俣に進んだところで、釣り竿を出した。人生初の渓流釣り。Kさんに餌をつけてもらった竿をお借りし、その場で振り向きざまに適当に第一投。餌が水面に当たってポチャンと音を立てた瞬間、ググッ!と引かれた。

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左端の岩沿い狙い

手応えに驚いて竿をあげると、餌はなくなっていた。これが「入れ食い」という状況なのかと思いきや、その後も3度逃げられて、もはや給餌係。Kさんは1匹を釣り上げた。さらに1時間ほど進んだ先でもう一度釣り糸を垂らすも、釣れず。

 

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肩まで浸かる釜を23つと越え、ぬめりや水流の強いところで時々お助けを出してもらいながら進むうち、それまでとは雰囲気の違う、空が開けた広大な空間に出た。

その突き当たりにはサンタクロースの顎髭のような巨大な滝。これが有名な三ツ釜か、と感激して写真をたくさん撮った。三ツ釜1段目の大滝は右側のリッジを登り、2段目も巻けるらしいが、滝を間近で見たくて釜の淵に降りた。

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三ツ釜

滝を眺めていたら、私だったらあのラインから登るかなあ、というのを見つけて、思わず「登れそうなラインがありますね」と呟いた。Kさんは「え、登りたいの? あれでしょ、正面左側のあのライン」と少し面倒そうに、でも的確に答えつつ、壁に近づいて苔の滑り具合を確認。これは相当滑る。

ラインに取り付くには、そんな苔でヌルヌルに滑る滝を5mほどトラバースしなければならない。下は流れのない釜なので、落ちてもまあ平気そう。しかし、たとえそのラインまで行けても、釜は足がつかない深さなので「水中ビレイできないからダメですね」と言うと、「ビレイはそこですればいいよ」とKさんは釜の対岸を指差した。

 

ザックを下ろしてロープをつけるKさん。リードしたかった…とはもう言えない私はビレイの準備をして見守る。

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Kさんは手足の置き場をタワシで大掃除しながらトラバースしていく。年末でもこんなにタワシ掃除しないんじゃないの。途中で諦めて戻ってくるかと思ったら、そのままラインに到着、ハーケンを1つ打ち、2つ打ち、あっという間に登りきった。さすが。続いてザックを荷揚げしたが、その荷揚げ作業がとても大変そうだったので、私は自分のザックを背負って登ることに。「大丈夫?難しいよ?」と声をかけられたが、すんなり登れた。8本指、意外といけるな。

 

三ツ釜の上で休憩し、時計を見ると13時半。そろそろ遊びは終わりにして先に進もう、「大滝を越えたところに、いいテン場があるらしい」、との情報を頼りに進んでいくが、大滝と言えなくもない20m程度の滝を、越えても越えても、まだ滝がある。それが4本続いた。「ヤド沢って滝多いね」とKさんが呟く。Kさんも遡行図を見ていないのであった。

アクシデントが起きたのは、そのときだった。

5本目の20mスダレ状の滝が見えて、一旦ザックを下ろして休憩。行動食を口にしながら滝を眺め、右から行けそうだけど水流強いね、さてどうしようと相談していた。再びザックを背負ったKさんが、近づかないと分からない、と言って滝へ向かって歩いていき、転倒した。

 慌てて駆け寄ると、口の中に出血。顔に傷はない。歯が折れたかもしれない。救急セットに入っているもので口の中で使えそうものは脱脂綿しかなく、「これを噛むようにして抑えてください」と言って、止血を試みることにした。 転んだ場所は、直径40cm程度の平べったい石。

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この手前の石

その石は、この日歩いてきた数万歩の中でも、最も易しい一歩のように見えた。その一歩を石に乗せるとき「滝しか見てなかった・・・」と言って悔やむKさん。そうさせてしまった遠因は私にもきっとある。しかし沢ヤとして「滝しか見てなかった」という転倒理由は最高にカッコいい。あとで元気になったら言おう。

 

1時間ほど前から嫌な気配を漂わせていた灰色の雲から、ついに霧雨が降り出した。時刻は15時。周囲にビバークできるような場所はない。少なくとも目の前の20m滝を越えなければならない。雷雨にでもなったら大変だ。そういえば、来る前にみた天気予報で雷注意報が出ていたっけ、、、 

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転倒直前

せめてKさんにツエルトを巻き付けようか、などと思案していると、「なんか大丈夫になってきた」とKさん復活。止血もうまくいった。転倒前となんら変わらないパフォーマンスで、つまり、私が全くついていけないスピードで、高巻きをこなした。King is back。よかった。

 

次の30m滝は見るからに登れないハング滝。ロープを出して左のリッジを登り、少し歩いたところで、整地すればなんとか泊まれそうな場所を見つけて、妥協。荷を下ろした。「大滝のうえにいいテン場が」という伝説のテン場ではないのは明らかだったが、仕方ない。

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風光明媚な宿

時刻は16時。滝のすぐ近くで、増水したらアウト、ほとんどゴルジュの中とも言える場所だったので、高台に素早く避難できるようにロープを張って保険をかけた。幸いにも雨は10分ほどパラついた程度で、すぐに青空に戻った。

 

今回初めて食事当番を仰せつかり、しかも夜と朝の2食分だったので、滝を登るより献立作成や調理のほうがよほど緊張した。沢泊経験に乏しい私は、タープ設営や焚き火や魚捌きなど、Kさんが涼しい顔でこなしていく様々な作業を横目で追うも、手伝えることは多くはない。薪集めぐらい。

 

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夜はゴロゴロ夏野菜の2色カレー

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朝は、たっぷりパクチーの海鮮フォー

Kさんは口の中が痛いそうで、食事を流動食のように細かく刻んで、咀嚼は奥歯だけを使って食べていた。歯が折れていたらどうしようと酷く心配しているのを、なんとか元気づけたくて「今の歯医者は色々技術があるから大丈夫ですよ、だってボクサーとかよく前歯折ってるジャン!」と上品な神奈川弁が飛び出したりした。

 泊まり沢にはビール500mlを2本、という誰からともなく真っ先に教えられていた最重要作法に従い、軽量化を台無しにした悪魔の飲み物をチビチビ飲みつつ、焚き火をくべながら話しているうちに夜は更けた。

 

翌朝は5時起き、7時発。夜間ずっと轟音で私の耳を苛んでいた幕営地直近の8m滝は右から巻いた。そしてしばらく進むと50m大滝が現れた。

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50m大滝

「大滝の上にビバーク適地がある」の大滝とは、このことだったようだ。圧倒的な大滝の風格。滝に近づいていたKさんが、おもむろにザックを下ろしたので何かと思ったら、魚を見つけて手掴みで取ろうとしていた。この日は34回手掴みに挑戦したが、成功せず。いつもは成功率が高いらしい。50m滝は「右のあの辺り登れるんじゃ・・・」という私の提案は即座に一蹴され、左から高巻いた。

 

大滝後に、4段25m滝があり、その後はゴーロ歩き。沢を詰めあげて林道にぶつかり、そこで沢装備を解いた。

 

しかし、借りていたチェーンスパイクは、返せなかった。昨日どこかで片方を落としてしまったようで、新品を買って落とし前をつける、というオチになった。むしろ、この話にオチをつけるために失くしたのかもしれない。

 

[行程]

1日目

駐車場08:08二俣09:20三ツ釜12:35幕営16:00

2日目

幕営07:0050m大滝07:30~林道09:30~駐車場11:14

 

[温泉]

ニューグリンピア津南(12時オープンを前倒ししてもらった)

[食事]

岳薮(売切閉店のところ、お願いして入れてもらった)

こんなグリーンな日/尾瀬大薙沢

 

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高速バスで尾瀬大清水に着いたのは、午前4時前。同じくバスから降りた10名ほどが、すぐにヘッドランプの白くて真っ直ぐで強烈な灯りをつけた。ヘッドランプに行灯モードとか実装されたらいいのに。

同行のHさんはなぜかプープーと息を吹き込んでエアマットを膨らませている。まだ寝る気らしい。意地でもヘッドランプをつけない私は、薄暗い月明かりの下で音を立てずにジッとしていた。

5時半頃に明るくなってきた。準備のためにベンチ前に沢装備を広げた。沢装備は物々しいからか人目を集める。特にここは尾瀬、天下のお花畑。私たちは今日、女子パだ。

 

尾瀬 根羽沢大薙沢左俣遡行 右俣下降>

荷物はデポして入渓6時半。初めて一緒に歩くHさんは、どういうペースかなど、最初はお互い探りながらの沢歩き。ゆっくり行きますね、と言いつつ、なかなかのスピード。

曇り空の中、さほど抑揚のない沢で、尾瀬ってもっとキレイじゃなかったっけ、と思っているうちに二俣を越え、沢の半分以上を経過。それでも上流に進むに連れて、滝が立ち始める。そろそろ登攀しようかと思っていると、2段15mの滝が出てきた。

見るからにヌメヌメで、高巻いても惜しくない滝だったが、Hさんが登りたいといって左端に取り付き、5m登った。その先は壁が立っていて登れないため、水流をまたいで右端へトラバースが必要。できれば保険がほしい。

ハーケン打てば?と声をかけ、Hさんはとりあえずカンカンと打ってみたものの、うまく刺さらず、弾けたハーケンは滝壺へ落ちた。回収不可能。少し進退に迷っているHさんのもとへ私が登っていき、トラバースして右端へ、そのまま確保できる場所まで登って、Hさんにロープを出した。本日は私が突破隊長。

あっという間に左俣最後の10m滝まで来た。滝は脆く、触れると岩がボロボロと剥がれ落ちるが、左右のガレを高巻くのもそれなりに嫌なので、フリーで滝を直登。相変わらず負傷中の指を封印しているため、指8本で。上の木で支点を作ってHさんを引き上げた。

 

稜線まで藪漕ぎ、登山道から大薙沢右俣を下降。地図上の水線あたりで水が出てきて、ナメ滝を軽快に降りた。隠れていた太陽が顔を出し、沢をキラキラと照らすと、別世界のように美しい沢になった。この尾瀬感よ、求めていたのは。

 

 13時半にバス停へ。Hさんは早速ビールを飲んでいた。なぜかビールの値段って覚えてしまう。尾瀬大清水の500ml缶は430円。帰りはグリーン車で、ビールとツマミで静かに宴会をしながら帰京した。

 

行程

入渓06:20〜二俣07:00〜2段15m滝08:00〜登山道09:50〜左俣下降点10:20〜二俣11:46〜下山12:42

脱臼した件/小室川谷

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月末に北海道日高の泳ぎ沢へ行く計画があり、そのプレ山行として柴倉川西沢へ行く予定が、天気による転進の結果、小室川谷に1泊と予定が立った。前日の雨で多少増水していたが、現地を見たリーダーのYさんが、遡行できると判断して入渓。先輩の判断はさておき、やっぱり水量多いなあ、という印象。水圧に負けそうなところもあり、スクラム徒渉を交えて遡行。Yさんは滝壺に落ちたらヤバそうな滝も、釜を泳いでいって取り付き、果敢に攻めていた。

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落ちたらヤバそうな滝壺

その姿を見た私とNさん、とても追う気になれず、嘘でしょ!?気合いが違う!と叫び躊躇。結果、Nさんが引き返してきたので良かったが、もし突破されていたら私たちも行くことになっただろうなあ。。この水圧にこの釜の流れは、怖い。

 

ゴルジュもかなり流れが強くて危ないので、大きく高巻いて空中懸垂をし、ゴルジュの中洲へ降りて突破。右へ左へ釜の中へ、と活路を見つけながら遡行を続けた。

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ゴルジュ

そして12時頃、私の左手に異変。

小指が手袋の中でブラブラと不自然に揺れていた。

 

手袋を取ると、指の形がおかしい。横にいたNさんに指を見せ「これ曲がってる?」と聞くと、「曲がってる!どうする?進むと戻れないよ」と言われ、何気なく指に触れると、激痛。沢の水で冷やして!とNさんからの指示。先の方を偵察に行ったYさんを呼び戻し、事情を説明。脱臼かな、でも折れてたら大変、と即座に下山決定。水から手を出し、石と割り箸で添え木にしてテーピングをしてもらった。私の荷物はYさんとNさんで分散してくれ、私はほとんど空のザックを背負った。

 

下山は簡単ではない。苦労して越えたゴルジュや激流をどうするか。高巻きで行こうと右岸左岸とウロウロするも、時間がかかりすぎる。いっそ水線突破に切り替えようか、いややっぱり高巻きで、と方針が何度も変わった。

 

しばらく左岸を高巻いていたが、左手を使えないのに左岸はキツイ。ガレガレで浮石だらけ、木は触るとすぐ抜けるほどに斜面が脆い。地図を見ながら何度も考え、やっぱり水線を行こう、と歩き始めたとき、左岸の先に不自然に整った道が見えた。なんと、水道局の巡視路。奇跡だ!と言いながら、1時間半ほどで15時に下山。この道がなかったら、4~5倍の時間がかかっていたに違いない。

 

下山中に痛みは引いた。痛み止めが効いたか、折れていないのかも、と思い、荷物持ちます、もう大丈夫と、小柄な身体に異様な大きさの荷物を背負ってくれているYさんに何度か言ったが、これも訓練だからと断られ、結局最後まで持ってもらった。

 

YさんNさんの2人はせっかく1泊予定で来たのだから、どこか転進か、山行を続けてください、私はバスと電車で帰りますと言ったが、「絶対にそれはない」と即答。救急病院へ連れて行かれた。レントゲンを撮ると、脱臼したが元に戻っていて、脱臼した際に関節の靭帯が伸ばして損傷した、とのこと。全治1〜2ヶ月。若い人だと週間、との診断。待合室の先輩方は一安心。1ヶ月後の日高までに治します、と絶対安静を誓ったのであった。

 

それにしても、いつ脱臼したのやら。思いつくのは、ザックを背負い直す際にバランスを崩し、ザックの全重量が小指1本にかかって、パキッと持って行かれたのかも、ということ。気をつけよう。

 

この日、別パーティに重大事故が起きた。事故箇所など詳細不明だが、いくつかの滝やゴルジュは、とても荒々しく危険だった。