海の日のヤマ熱/五頭の沢と杉滝岩

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7月の3連休といえば、2018年も、2017年も、ドピーカンで熱中症になって、暑さと戦いながらも印象深い山行をしてきた、大切な3日間。それが今年はどうだ。雨に翻弄された3連休。当初2泊の予定で沢の計画を立てていたが、雨雲を避けて2度の転進。そのうえ、私が風邪をひいて体調を崩し、一時期は不参加を表明せざえるを得ない状態に。

そこから回復し、風邪っぴきの私を連れて行ける場所、とご配慮いただき、最終目的地は五頭の日帰り沢に定まった。出発前日の朝から入間のジムに集まって5時間ほど登り、そのまま五頭へ出発。このときのクライミング熱が、あとで再燃することになる。

 

北へ向かうほどに雨は弱くなり、夜は阿賀野の道の駅で、ワサビ味のつまみを酒の友にして過ごした。しかし翌朝起きると、予報では降らないはずの雨がシトシト。これでヤル気を削がれ、予定していた大荒川西小倉沢は遡行に8時間程度かかるので、もし降られると大変だからと、西小倉沢の3分の1の短さだというエノ倉沢を遡行することになった。結局3度目の転進。

 

そして、05:30入渓→09:00下山、という速攻山行。その中身はこうだ。エノ倉沢は、沢というより、増水した登山道のようで、先頭を歩くKさんが「このまま何もないんじゃない?」と言って3度目に振り返ったときには、すでに沢の半分は経過、目の前にはこれまでと同じような凡庸な景色が広がるのみであった。

 

むしろ勢いがあるのは枝沢で、そちらに目が奪われた。本流より多い水量を落とし、奥には10mほどありそうな滝が見えた。「この枝沢に行ったら、楽しそうですよね」とYさんに探りをいれる。Yさんの心は既に枝沢に靡いているのが目に見えて分かったが、少し逡巡しながらKさんの意向を確認している。地図を見ながら相談中の先輩たちの背後には、先月あれほどみなに探し求められていたウルイの大株が、もう育ちすぎたから、と見向きもされずに揺れていた。

 

「会では誰も行ってないし・・・行くか!」と結論が出て枝沢へ。10mほどの滝は遠くで見たときには気づかなかったが、一枚岩のスラブ壁だった。ツルッツルに滑る。前日のジムの最後をスラブ壁で締めたKさんがフリーで突破。手厚くロープを下ろしていただいた。その後も小ぶりな滝が3つほど続き、少しの藪漕ぎで登山道へ出ると、5分ほどで山葵山の山頂に到着。新潟平野を眼下に一望しながら、いま登ってきた枝沢に名前がないなら、スラブの形状から「ワサビおろし沢」にしようとYさんが発案、言い得て妙だった。

 

すれ違う登山客に「もう下山?」と訝しまれながら、9時に駐車場着、温泉から出たのが10時過ぎ。早すぎる。せっかく五頭まで来ているし、これからどうする?と相談。それぞれの提案は、

 

Kさん「郷土資料館」

Yさん「温泉めぐり」

わたし「この辺の岩場」

 

温泉ですっかり和んでしまっている先輩たちのクライミング熱に再び点火すべく、この辺に岩場はないかと検索をかけると、車で40分ほどの新発田市のダムに、整備された岩場があるとの情報がヒット。「岩場がありましたよ、杉滝岩、内の倉ダムのところで・・・」と読み上げると、Yさんが「あれか~!内ノ倉川に行くとき、いつも目の前を通ってる!」とのこと。そして、さすがはKさんの車、当該エリアのトポが載った本が積まれていた。しかも、前日のジムで使ったシングルロープが2本ある。ヌンチャクは全員分を集めれば足りる。条件はクリア。行くっきゃない。一目散に岩場へ急行した。

 

杉滝岩は42本のルートがあり、地元の有志(山岳会?)による整備が行き届いている。ボルトも新しく、屋根付きの休憩場所も設置されていた。挨拶をすると、ルートをあれこれと教えていただいた。名乗りはしなかったが、「東京から来たんだってよ!沢に行ってきたんだと!」と瞬く間に岩場のみなさんに情報が拡散された。課題を登っていると、やんややんやと声が飛ぶ、賑やかな岩場だ。私たちは当初から1~2本登ればいいよねと話していた通り、トポに載っていた星付きルートを2つ触って、Kさんが5.11bRPして場が締まったところで、終了。日帰り2本立ての山行を終えた。

コーラと沢靴/一ノ倉南稜

 

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谷川岳 一ノ倉沢 烏帽子奥壁南稜

 

「ノー残置。マイギア!」

という副題で書きなさい、とリーダーからの指令があった。

 

大先輩のIさんとOさん、この二人のスリングやヌンチャクが纏うダークブラウン調カラーが、一ノ倉南稜で悠久の時を過ごしている諸残置物と見紛うほどに溶け込むのである。回収しないヌンチャクなどないのは分かっているが・・・。

 

私「・・・Oさん、これ残置でしたかね?」

 

Oさん「っ!!!」(←Oさんが3cmぐらい浮いた)

 

私「Iさん、これはさすがに残置ですよね?」

 

Iさん「オレのだよ!マイギア!!」

 

以降、これ残置じゃないからね、マイギアだから、と念押しされながら登ったのであった。

 

閑話休題

 

一ノ倉沢出合から南稜へ向けてアプローチを開始したのは朝7時。今日1日の快晴を約束するかのように、雲ひとつない青い空。首の後ろに日焼け止めをたっぷり塗った。雪渓が多く残っていて、アプローチは容易だった。

 

テールリッジに取り付いてから、最後尾を歩いていたIさんが随分ゆっくり登ってくるなと思っていたら、コシアブラを発見していた。一ノ倉でも山菜。さすがである。収穫は帰りのお楽しみとした。

 

南稜テラスで先行パーティが登っていくのを待ちながら身支度をし、チェーンスパイク等の登攀に不用な物はテラスにデポした。5人でグーパーをしてチーム分け。Iさん~Fさん~Mさん組と、Oさん~わたし組に決まった。

 

Fさんのリードから登攀が始まった。Fさんは初めての本チャンだという。途中(4ピッチ目だったか)、馬の背リッジ下部で、馬の「背」ではなく馬の「脇腹」を通るハプニングがあるも、沢ヤだから岩よりも草付き(脇腹寄り)に引かれていくのだろう、というMさんの解説に、ウマいこと言うな、と納得した。

 

印象的だったのは、5ピッチ目をリードしていたOさんが、終了点らしき場所に到達してもなお「ロープ残り何メートルですか?」と聞くので、「10以下!」と私が叫ぶと、「わかりました~」と言って、そのまま数メートル先の次のアンカーまで登っていったこと。10以下という曖昧な数字でも登れる、こういう男気を見習いたい。

 

また、このときOさんが延長して登ったことにより、最後の7ピッチ目20mⅤ級をどちらがリードするか譲り合っていた件に決着がついた。次の6ピッチ目30mⅣ級のクラックが私になり、7ピッチ目は必然的にOさんに。Oさんは「ロープは50mあるから、6&7ピッチ繋げて行けますよ」と耳より情報をくれたのだが、丁重にお断りした。だって角度的にビレイヤーから7ピッチ目のクライマーが見えないし、私は沢靴で登っていたので。

 

登攀中、Iさんが何度か繰り出した特殊ムーブがあった。「長い足!」と大きな声で言いながら、見せつけるように足を伸ばして、離れた岩に乗り込むのである。毎回、女性陣の間で小ブーイングが起きていた。

 

4回の懸垂下降を終えて南稜テラスに戻り、デポした品を回収しつつ一息ついていると、Fさんが「この場所で聞きたい曲があるの」と言ってスマホを取り出した。スピーカーから流れた軽快な音楽は、谷川小唄だ。「行くぞ谷川 ちょいと一ノ倉 トコズンドコズンドコ〜♪」。

テールリッジでIさんが見つけていたコシアブラを収穫して雪渓に降り、チェーンスパイクをつけて出合まで下山した。