こんなグリーンな日/尾瀬大薙沢
高速バスで尾瀬大清水に着いたのは、午前4時前。同じくバスから降りた10名ほどが、すぐにヘッドランプの白くて真っ直ぐで強烈な灯りをつけた。ヘッドランプに行灯モードとか実装されたらいいのに。
同行のHさんはなぜかプープーと息を吹き込んでエアマットを膨らませている。まだ寝る気らしい。意地でもヘッドランプをつけない私は、薄暗い月明かりの下で音を立てずにジッとしていた。
5時半頃に明るくなってきた。準備のためにベンチ前に沢装備を広げた。沢装備は物々しいからか人目を集める。特にここは尾瀬、天下のお花畑。私たちは今日、女子パだ。
<尾瀬 根羽沢大薙沢左俣遡行 右俣下降>
荷物はデポして入渓6時半。初めて一緒に歩くHさんは、どういうペースかなど、最初はお互い探りながらの沢歩き。ゆっくり行きますね、と言いつつ、なかなかのスピード。
曇り空の中、さほど抑揚のない沢で、尾瀬ってもっとキレイじゃなかったっけ、と思っているうちに二俣を越え、沢の半分以上を経過。それでも上流に進むに連れて、滝が立ち始める。そろそろ登攀しようかと思っていると、2段15mの滝が出てきた。
見るからにヌメヌメで、高巻いても惜しくない滝だったが、Hさんが登りたいといって左端に取り付き、5m登った。その先は壁が立っていて登れないため、水流をまたいで右端へトラバースが必要。できれば保険がほしい。
ハーケン打てば?と声をかけ、Hさんはとりあえずカンカンと打ってみたものの、うまく刺さらず、弾けたハーケンは滝壺へ落ちた。回収不可能。少し進退に迷っているHさんのもとへ私が登っていき、トラバースして右端へ、そのまま確保できる場所まで登って、Hさんにロープを出した。本日は私が突破隊長。
あっという間に左俣最後の10m滝まで来た。滝は脆く、触れると岩がボロボロと剥がれ落ちるが、左右のガレを高巻くのもそれなりに嫌なので、フリーで滝を直登。相変わらず負傷中の指を封印しているため、指8本で。上の木で支点を作ってHさんを引き上げた。
稜線まで藪漕ぎ、登山道から大薙沢右俣を下降。地図上の水線あたりで水が出てきて、ナメ滝を軽快に降りた。隠れていた太陽が顔を出し、沢をキラキラと照らすと、別世界のように美しい沢になった。この尾瀬感よ、求めていたのは。
13時半にバス停へ。Hさんは早速ビールを飲んでいた。なぜかビールの値段って覚えてしまう。尾瀬大清水の500ml缶は430円。帰りはグリーン車で、ビールとツマミで静かに宴会をしながら帰京した。
行程
入渓06:20〜二俣07:00〜2段15m滝08:00〜登山道09:50〜左俣下降点10:20〜二俣11:46〜下山12:42