コーラと沢靴/一ノ倉南稜

 

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谷川岳 一ノ倉沢 烏帽子奥壁南稜

 

「ノー残置。マイギア!」

という副題で書きなさい、とリーダーからの指令があった。

 

大先輩のIさんとOさん、この二人のスリングやヌンチャクが纏うダークブラウン調カラーが、一ノ倉南稜で悠久の時を過ごしている諸残置物と見紛うほどに溶け込むのである。回収しないヌンチャクなどないのは分かっているが・・・。

 

私「・・・Oさん、これ残置でしたかね?」

 

Oさん「っ!!!」(←Oさんが3cmぐらい浮いた)

 

私「Iさん、これはさすがに残置ですよね?」

 

Iさん「オレのだよ!マイギア!!」

 

以降、これ残置じゃないからね、マイギアだから、と念押しされながら登ったのであった。

 

閑話休題

 

一ノ倉沢出合から南稜へ向けてアプローチを開始したのは朝7時。今日1日の快晴を約束するかのように、雲ひとつない青い空。首の後ろに日焼け止めをたっぷり塗った。雪渓が多く残っていて、アプローチは容易だった。

 

テールリッジに取り付いてから、最後尾を歩いていたIさんが随分ゆっくり登ってくるなと思っていたら、コシアブラを発見していた。一ノ倉でも山菜。さすがである。収穫は帰りのお楽しみとした。

 

南稜テラスで先行パーティが登っていくのを待ちながら身支度をし、チェーンスパイク等の登攀に不用な物はテラスにデポした。5人でグーパーをしてチーム分け。Iさん~Fさん~Mさん組と、Oさん~わたし組に決まった。

 

Fさんのリードから登攀が始まった。Fさんは初めての本チャンだという。途中(4ピッチ目だったか)、馬の背リッジ下部で、馬の「背」ではなく馬の「脇腹」を通るハプニングがあるも、沢ヤだから岩よりも草付き(脇腹寄り)に引かれていくのだろう、というMさんの解説に、ウマいこと言うな、と納得した。

 

印象的だったのは、5ピッチ目をリードしていたOさんが、終了点らしき場所に到達してもなお「ロープ残り何メートルですか?」と聞くので、「10以下!」と私が叫ぶと、「わかりました~」と言って、そのまま数メートル先の次のアンカーまで登っていったこと。10以下という曖昧な数字でも登れる、こういう男気を見習いたい。

 

また、このときOさんが延長して登ったことにより、最後の7ピッチ目20mⅤ級をどちらがリードするか譲り合っていた件に決着がついた。次の6ピッチ目30mⅣ級のクラックが私になり、7ピッチ目は必然的にOさんに。Oさんは「ロープは50mあるから、6&7ピッチ繋げて行けますよ」と耳より情報をくれたのだが、丁重にお断りした。だって角度的にビレイヤーから7ピッチ目のクライマーが見えないし、私は沢靴で登っていたので。

 

登攀中、Iさんが何度か繰り出した特殊ムーブがあった。「長い足!」と大きな声で言いながら、見せつけるように足を伸ばして、離れた岩に乗り込むのである。毎回、女性陣の間で小ブーイングが起きていた。

 

4回の懸垂下降を終えて南稜テラスに戻り、デポした品を回収しつつ一息ついていると、Fさんが「この場所で聞きたい曲があるの」と言ってスマホを取り出した。スピーカーから流れた軽快な音楽は、谷川小唄だ。「行くぞ谷川 ちょいと一ノ倉 トコズンドコズンドコ〜♪」。

テールリッジでIさんが見つけていたコシアブラを収穫して雪渓に降り、チェーンスパイクをつけて出合まで下山した。