逆流する滝/井戸小屋沢

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台風がきていた。過去最大クラスで関東直撃、多くの電車が計画運休を発表していた。早く遡行を終えて帰らねばならないが、早朝の土樽駅で見た万太郎谷は、すっぽりと雲に覆われていた。谷川の他の山は綺麗に稜線が見えているのに、万太郎だけに重たい雲が乗っていた。

 

いまさら転進は気が乗らなかった。午前は少し降るが、午後は晴れる、という予報に期待して入渓した。雲の下、強風の中を、美しい渓相に後ろ髪を引かれながら、河原を走るように進んだ。

 

オキドウキョというゴルジュで、私が足を乗せようとした岩がモソモソと動いた。掌の半分ほどの小さなネズミがそこにいた。ゴルジュに住んでいるのだろうか。ネズミは2本足で立ちあがり、米粒のように小さな両手をゴシゴシと合わせて何かブツブツと言っている。目を離さずにいたのに、瞬きをした隙に消えてしまった。

 

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11時を過ぎ、稜線に近づくとともに風が強くなった。あまりの強さに、登ってきた滝が逆流して、水が宙に飛び上がり、私たちの背中にびしびしと当たった。痛い。痛いほど大きい飛沫の粒。こんなこと初めてだった。

 

台風は夜遅くに関東に上陸し、千葉の一部地域をめちゃくちゃになぎ倒した。電柱が倒れて送電線が千切られた地域は、10日経った今もまだ電気が復旧していない。